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フェロー体験談

南米のとある国からエル・システマという面白い取り組みが広まっていることを知ったのは数年前のことでした。治安が悪く子どもたちの安全を確保できない社会環境の中で、彼らに無償で楽器や音楽教育を提供する。そうすることで安全な場所を提供すると同時に社会性や生きる力を育む。私はそのコンセプトに深く共感しましたが、同時に、子どもたちが心から音楽を楽しんでいることが見て取れ、感銘を受けたのです。

                                       

また、大学生のときは多様性を受け入れる社会について研究していましたが、このエル・システマこそ、言語や文化といった様々な垣根を越え、音楽という共通言語を通じて人々がつながることができる理想的な仕組みではないかと考えるようになりました。

 

 

2011年の東日本大震災後、日本でも福島県相馬市でエル・システマジャパンによる支援が始まったと聞き、当時始まったばかりの弦楽器教室を見学させてもらいました。その後、代表理事の菊川さんに誘われ、バイオリンの指導のために指導ボランティア(フェロー)として定期的に通うようになりました。

 

しかし、始まったばかりの弦楽器教室。未就学児から高校生までと学年も幅広く、当時70人もの子どもたちを教えるには、すべてが手探りの状態でした。私は専門的な音楽教育や、子どもへの学習指導などの経験がないという不安もあり、指導中に飽きてしまう子どもや話を聞かない子どもがいると「今日は子どもたちに何を伝えられたんだろう…」と落ち込むこともしばしばでした。

 

例えば、ある子は、弦楽器教室に通い始めて数ヶ月目の時は楽器の持ち方や簡単な練習曲を弾いているうちに数十分で飽きてしまい、なかなか集中力が続きませんでした。

 

エル・システマに関わることで、普段の大学生活、社会人生活ではできない体験をたくさんすることができます。子どもたちと向き合い、心からその成長を楽しめる仲間が増えることを心からお待ちしています!

 

社会人フェロー 飯田 佑理子

(C)FESJ/2013/Mariko Tagashira

しかし指導時や休憩時間の様子を見ているうちに、非常に負けずぎらいな子だということがわかり、練習にあたって自分ができないことがあると自信とやる気をなくしてしまっているのでは?と思い当たりました。そこで私は、些細なことでもできるようになったらほめることを心がけて声をかけるようにしました。

 

そういった小さな積み重ねが効を奏したのか、わずか1ヶ月後の練習では、1時間程度の練習にもしっかりと集中して参加することができ、また練習曲の一部が難しくて弾けないことを悔しがって「お家で練習する!」とお母さんと話していたりと、楽器を弾くことに対する姿勢が明らかに変わってきた、と感じた瞬間がありました。

 

こうした経験をふまえ、その場その場で子どもたちの様子を見ながら柔軟に対応することが最も大切だと感じています。子どもたちのそれぞれの成長を感じ取れる瞬間を本当に楽しみに、毎回の指導サポートに臨んでいます。

 

現在、私はフェローの取りまとめ役をしていますが、社会人・大学生・音大生など様々なバックグラウンドからなるフェローが、それぞれの得意分野をどう活かしながら、どう子どもたちに向き合ってもらえるかということを日々模索しています。

(C)2014 by Peter Brune 

エル・システマを知ったきっかけは大学で所属していたラテンアメリカ地域研究のゼミです。論文の執筆テーマを探すうちにインターネットの記事でエル・システマのことを読んだのが出会いでした。中学の部活でバイオリンを始めて以来、中高大学と楽器を続けていたので、音楽を用いた社会貢献の仕組みという点に非常に興味を持ち、研究テーマに決めました 。研究を進めるうちに、オーケストラでの合奏を通じ、協調性や皆で何かを作り上げることを学ぶという理念に惹かれていきました。

 

その後、大学院に進学し、学部での研究内容を発表する際に情報をアップデートしたところ、エル・システマジャパンが設立されたことを知りました。研究していたのは、ベネズエラのエル・システマでしたが、あの素晴らしい活動が日本でも行われるなら、何か少しでも力になりたいと代表の菊川さんに直接ご連絡しました。そうしたところ、「弦楽器が弾けるのなら、一度相馬に行ってみませんか?」と声を掛けていただき、相馬行きが決まりました。まさか自分が指導をすることになるとは思っていませんでしたが、すっかり相馬の子どもたち、地域の魅力の虜になり、定期的に指導ボランティアとして通うようになりました。

 

フェローとしての活動の魅力は、何といっても子どもたちの成長を間近に見られることだと思います。エル・システマで初めて楽器を手にした子も、前から楽器を弾いていた子も

 

バックグラウンドに関係なく一体となって練習しています。難しい曲やスケールの練習に一生懸命取り組む子どもたちをサポートできる立場には非常にやりがいを感じています。

 

また、最初は人見知りをしていた子どもたちが、通う学校、学年の垣根を越えて新たな友達を作り、エル・システマという場を楽しんでいる様子を見ることができるのも嬉しいです。相馬に通ううちに、「先生、聞いて」と皆、私にも学校やお家での話をたくさんしてくれるようになりました。

 

このように長期間にわたり、技術面、精神面など子どもたちの成長を様々な角度から見守ると同時にサポートできるのがフェローの醍醐味だと思っています。

 

高速バスや新幹線を用いても東京—相馬間の往復には時間が掛かります。また、相馬で指導を行い自宅に帰ってくると疲れたと感じることもあります。しかし、移動にかかる時間や疲れを越える楽しさと充実感がフェローとしての活動にはあると思っています。私自身、楽器の指導経験は今まで全くありませんでした。しかし、どうすれば子どもたちが楽しみながら練習に取り組み成長できるか、他のフェローや先生方と試行錯誤しながら考える日々にとてもやりがいを感じています。

 

 エル・システマの活動に携わる中で、他大生、社会人のフェロー仲間、東京、相馬で活動をサポートしてくださっている方々など数え切れない新しい出会いがありました。今までの経験の差は関係ないと思います。少しでもエル・システマでの活動に興味がありましたら、是非一度相馬に来てみてください。一緒に活動できる日を楽しみにしています。

 

学生(当時)フェロー 豊福 裕梨奈

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