翻訳元記事: THE WORLD ENSEMBLE(April 28,2018)
By Catherine Surace,Academic Director of Fundación Nacional Batuta
「自分はだれであるか」を認識するための音楽 著者: Catherine Surace(Batutaアカデミックディレクター)
人間が「密生」する、社会という名のジャングルで、「自分が何者である」という感覚なくして、人は生きている実感を得られない。 ―エリック・エリクソン
1991年、コロンビア政府は民間セクターと提携し、青少年と子どものオーケストラとしてBatuta を創設した。創設者たちが、マエストロ、ホセ・アントニオ・アブレウとベネズエラのエル・システマに触発されていたことが設立の契機である。
「バトン・指揮棒」を意味するスペイン語の「Batuta」(以下、バトゥータと表記)は、国が主導するエル・システマ事業の中では2番目に大きなものだとされている。バトゥータは創設から26年が経過し、これまでに40万人以上の子どもや青少年が全国規模で参加しているが、その対象はとりわけコロンビア戦争の被害者や強制的に退去を強いられた市民である。
暴力、紛争、新しく台頭した土地への所有意識はコロンビアの800万人以上の人々に影響を与え、住んでいた土地やコミュニティーとのつながりを弱めた。また、彼らのアイデンティティに強く影響を及ぼし、代々受け継がれてきた文化的遺産は危機に直面した。
コロンビアは地球上で最も「生物多様な国」であるだけでなく、70以上にものぼる言語、12の主要な文化と音楽の区域を持っている国である。そういったことが前提にあり、バトゥータは「子どもや青少年のアイデンティティと帰属意識」を構築することが活動の意義であると意識している。
では、どうすれば「アイデンティティや帰属意識」を構築することができるのだろうか。オーケストラや学校をモデルにしたバトゥータでは、「演奏する曲の選択」こそが、子どもが教室に入ってくる前に行う、教師のたった1つの、けれど1番大事な仕事である。
「質」、「教えることのできる範囲」、「アカデミックな基準」と「楽しく演奏すること」をどう両立させるか、などを見極めるためにこの過程は非常に重要である。私たちが選ぶ曲目とは、「カリキュラムの内容を生徒たちに伝える乗り物」であり、また同時に幼い子ども、若い人たち、聴衆と文化的な豊かさを結び付け、先祖代々引き継がれてきたコロンビア音楽の遺産を保存することに対して、彼らがより意識的になれる機会であると捉えている。 音楽的な要素やスキルを教える一方で、こうした音楽を通した沢山の人たちとの交流は、本質的な音楽学習に迫ること、教室を越えて世界とつながること、そして彼ら自身の音楽の遺産とつながることへの筋道を照らしてくれた。
26年の経過の中で、バトゥータは教育学に関する部門を発展させた。この部門は創造性と技術を持って「コロンビアのポピュラー音楽や伝統音楽作品から成る質の高い音楽をアンアンブルに提供する」という複雑で高度な挑戦にも対応している。 この質の高い音楽は「音楽言語」「音楽的な表現」「コーラスやオーケストラのアンサンブルの風習」について学ぶという目的を満たすものである。
今日までバトゥータは200以上のコーラスアンサンブル、オーケストラアンサンブルのための曲を出版している。これらの編曲や原曲はコロンビア伝統音楽に基づく。それは私たちの音楽を豊かにし、また多くの民族と文化が混在し、多様で豊かな国に生きる私たち自身の文化の普及に寄与し、また自分自身を認識することにつながる。それこそが私たちの国民意識を形成する豊かな「混ざり合い」だ。
新しい世代の子どもたちに質の高い音楽を与える上で、バトゥータと文化省や外務省などの公的機関や、民間企業との連携は不可欠なものである。このおかげで、子どもたちは音楽を学び、練習し、楽しむと同時に、心を揺さぶる音楽の力に触れることができるのである。