ベネズエラ、東京、相馬、声、手、目、耳、表情、弦、ラテンアメリカの楽器、拍手…。先月末に開催された『エル・システマ ガラコンサート』は、まさに音楽という名のもとに集まった感性のスクランブル交差点でした。たくさんの出会いがあり、発見があり、インスピレーションの融合がありました。そのなかから、「相馬子どもコーラス」と「東京ホワイトハンドコーラス」の子どもたちの交流の様子をご紹介します。
はじめて大きな舞台を踏んでからほぼ4年になる「相馬子どもコーラス」。これまで外国語を含むいろいろな歌にチャレンジし、さらにはユニークな振付も披露してきました。とはいえ、「手歌」に出会ったことはありません。一方、「東京ホワイトハンドコーラス」は今年6月に誕生したばかりのグループ。今回の公演に参加したメンバーのほとんどは、耳がまったく聞こえない、もしくは部分的にしか聞こえない、ろうの子どもたちです。ろう学校に通う子どもたちは、日常的に健聴者の子どもたちと接する機会があまりありません。
この背景の異なるふたつのコーラスが、『エル・システマ ガラコンサート』のステージでともに立つべく、相馬と東京でそれぞれ練習を重ねてきました。子どもたちがはじめて顔を合わせたのは、本番の前日。こちらのFacebookでも先日お伝えした交流会のあと、「相馬子どもコーラス」と「東京ホワイトハンドコーラス」の子どもたちは早速、合同練習をスタートしました。
「相馬子どもコーラス」と「東京ホワイトハンドコーラス」の子どもたちは、一方は声で、もう一方は手で歌います。パーツは違えども、両方とも私たちの体の一部。それを使って、同じ歌を一緒に表現するのです。今回、子どもたちが共演のために練習してきたのは、唱歌の「紅葉」と「雪」、それから、「五つのこどもうた」より「つきのひかり」、「うたを うたうとき」、「ことり」。それに、アンコールの2曲。ホワイトハンドの子どもたちは、「手歌」という彼らにとっても未知だった世界を短い間にたくさん探索しました。
「「紅葉」や「雪」も表現が変わるだけで、紅葉の色、雪のふり方も変わります」と、「東京ホワイトハンドコーラス」のひかるさん(高3)。相馬の子どもたちが声の色で紅葉を表せば、ホワイトハンドの子どもたちは顔の表情や手の動きで、葉の数や色やその風情を伝えます。「相馬子どもコーラス」の亜弥さん(中3)は、「すごい、こういうふうに表現するんだ!」と刺激を受けた様子。真依子さん(中3)は、「音楽をやるのに耳が聞こえないのは大変だと思うけれど、(ホワイトハンドの子どもたちは)全身で表現して生き生きしている。共演は貴重な経験」と話してくれました。
合同練習、リハーサル、そして本番と2日間をともにして、歌の世界を一緒に表現した「相馬子どもコーラス」と「東京ホワイトハンドコーラス」の子どもたち。終演後はバックステージで一緒にスマホで記念撮影したり、抱きあったりして、大変な盛りあがりようでした。
「言葉が話せなくても、一緒に交流できて楽しかった(ひとみさん、相馬・中1)」
「身ぶり手ぶりでコミュニケーションできた(菜子さん、相馬・小5)」
「みんなと仲よくなれた。(「相馬子どもコーラス」の)お菓子の歌を見て、いいな、おもしろいなと思った(みひろちゃん、東京・幼稚部3年)」
「ろうとか聞こえるとか関係なく、仲よくなれた。世界中にいろいろな障害者がいるけれど、みんなと仲よくなりたい。みんなにそう言っていきたい(美紗生さん、東京・小3)」
実際に会うまでは、それぞれ楽しみな部分と不安な部分があったのかもしれません。でも、こうしてつながれたこと、気づくことや考えることがあったこと、そして何より喜びと感動を分かちあえたことを、ずっと大切にしてもらえたらと思います。