『相馬子どもオーケストラ』の中〜上級クラスの子どもたちが、ヴィヴァルディの「調和の霊感」の楽譜を手にしたのは約2ヶ月前。全員が伴奏に取り組み、クリアした子どもたちからソロに挑戦しました。そして、さらに余力のある子どもたちは、1ヶ月前から「四季」のソロに着手。それぞれが自分の課題と向きあう一方で、「調和の霊感」と「四季」をオーケストラの合奏として完成させるべく、全員で試行錯誤を重ねてきました。
そんな子どもたちにとって、夏期学習会の3日間は自分たちの演奏に集中的に磨きをかける機会でした。その成果を発表する場であるミニコンサートは真剣勝負のステージ。朝からはじまったリハーサルは白熱して時間が後ろ倒しになり、ミニコンサートは予定より10分遅れて開演しました。
入れ替わりステージ前方に立ってソロをつとめた子どもは、「調和の霊感」が12人、「四季」が4人。もちろん、ほかの子どもたちもオーケストラで大切な役割を果たします。全曲、初披露。この2ヶ月間の挑戦と努力が詰まった大切な作品です。ステージからは、楽しいだけではない、子どもたちの本気モードが電気のようにびりびりと伝わってきました。会場のはまなす館には、保護者の方たちを中心に地域の方たちも大勢いらっしゃいましたが、みんな息をつめて子どもたちが繰り広げる世界に神経を集中させていました。
予定時間を1時間近く押して、ミニコンサートは午後4時前に終演しました。自分の演奏に満足した子どももいれば、そうでない子どももいたようです。「四季」の秋でソリストをつとめた萌々圭さん(中1)は気合いを入れて臨みましたが、本番では力を十分に発揮できなかった様子。悔しそうにしている萌々圭さんに、「調和の霊感」の3の8番でソロを演奏したお姉さんの巳早希さん(高1)が励ましの言葉をかけました。すぐには気持ちの整理がつかなかったようですが、それでも、「また機会があったらやりたい。リベンジしたい」と萌々圭さん。
楽譜をもらってからの練習期間は2ヶ月。これだけの難曲をこなすのに、たった2ヶ月と受けとめるか、十分な時間枠と見るか、いろいろな考えがあるのかもしれません。エル・システマジャパン音楽監督の浅岡洋平先生は、「新世界」という45分にも及ぶ高度な交響曲を4ヶ月で学んだ相馬の子どもたちにとって、今回の2ヶ月はちょうどいい期間だと判断しました。その根底には、「自身の価値観で物事を判断し、より良いもの、より高みを目指す、卓越性への志向を得ること。そこに学問・芸術としての音楽を学ぶ意義がある」という浅岡先生の哲学があります。また、そんな価値観を共有できるコミュニティでこそ、オーケストラは育つのだそうです。ソロを経験した子どもたちには、今度はオーケストラのほかの子どもたちに技術を伝授していくことが期待されています。まさに集団で学ぶからこそ実現可能な波及効果です。
「Tocar y luchar(奏で、そして闘え)」奏でることは、ときとして自分との闘いなのかもしれません。さらなる高みを目指そうとすると、その行く手に立ちはだかるのは自分自身のあらゆる姿であったりします。今回のミニコンサートで悔いが残った子どもたちが、その経験をバネにして次のステージへ進んでくれることを心から願っています!