『第3回エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』は、2日目も700名を超えるお客さまが会場を埋め、相馬市民会館はほぼ満席。そのなかで、最初にステージに登場したのは「相馬子どもオーケストラ」の子どもたち。颯くん(小6・普段はバイオリン)の指揮で、コレッリ作曲の「合奏協奏曲集作品6 第4番ニ長調」を披露しました。夏の水田が青々とした時期から取り組んできた作品で、準備は万端ですが、それでも地元の人たちを中心に大勢の聴衆が見守るステージには緊張感が漂います。しかし、子どもたちは颯くんの指揮にしっかりついて、堂々と演奏しました。
続いて、ホルスト作曲の「セントポール組曲 作品29-2」は、浅岡先生に指揮をバトンタッチし、勢いよく攻めていくような旋律からドラマチックに聴かせるところまで、子どもたちはしっかりと自分たちの世界観をつくりあげていきました。大きく成長した「相馬子どもオーケストラ」に沸いた会場に応えて、子どもたちがアンコールで演奏したのは、アンダーソン作曲の「プリンク、プランク、プルンク」。弦楽器を弓でひく代わりに、弦を指で弾いて音をだすピチカートという演奏技法が、最初から最後まで用いられます。途中、コントラバスの子どもたちが楽器をくるりと回転させるパフォーマンスもあり、かわいらしく遊び心のある「プリンク、プランク、プルンク」に、思わず笑みがこぼれた来場者もたくさんいらしたようです。
そして、いよいよ「相馬子どもコーラス」が登場。最初に相馬市立桜丘小学校の小学生たちが、「小鳥の歌」、「泉のほとり」、「ぼくらのエコー」、「川」の4曲を披露。後者2曲は今夏にエントリーした「NHK全国学校音楽コンクール」の課題曲でもあり、子どもたちはたくさん練習を重ねてきました。「ぼくらのエコー」には、「声よ 山になれ 声よ 海になれ 声よ 声よ そこをこえよ!」という歌詞がありますが、透明感あふれる子どもたちの歌声はまさに時空を超えて、どこまでも広がっていくようでした。
クリスマスソングの数々を歌いあげる『新しい星光った』のプログラムには、「相馬子どもコーラス」の中学生と高校生も参加。「もみの木」、「ジングルベル」、「諸人こぞりて」など、おなじみのクリスマスソングや賛美歌を、ラッキィ池田さんと彩木エリさんのかわいらしい振付とダンスとともに披露しました。色とりどりのパンツをはいた子どもたち全員でクリスマスツリーのフォーメーションを組んだり、そりに乗るジェスチャーをしたりと、楽しいクリスマスのムードで盛りあげました。
『クリスマス・グリーティング』では、照明の落ちた客席後方から、「相馬子どもコーラス」の子どもたちが白いケープ姿にそれぞれロウソクのような淡い灯りを手に登場。会場は瞬く間に聖なる夜の雰囲気に包まれました。古橋先生の編曲による「さやかに 星はきらめき」、「ホワイトクリスマス」などが披露されたほか、途中からは駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使夫人でソプラノ歌手であるコロン・えりかさんが加わり、子どもたちと一緒に「アヴェ・マリア」や「クリスマスの季節」で美しい歌声を響かせてくださいました。また、「きよしこの夜〜」で有名な「聖夜」は客席も一緒になって歌いました。
アンコールは、さだまさしさん作詞作曲の「ふるさとの風」。この曲の歌唱に先立ち、「相馬子どもコーラス」を代表して亜弥さん(中2・メゾソプラノ)が、東日本大震災から5年が経ち、自分たちの心が復興しはじめていること、歌が心を変えてくれたこと、「ふるさとの風」を今年4月に被災して今も大変な状況にある熊本県益城町の皆さんに贈りたいというメッセージを伝えてくれました。
プログラムの最後は、「相馬子どもオーケストラ&コーラス」による、モーツァルト作曲の「アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618 ニ長調」。澄みきった歌声と演奏に会場は静謐な雰囲気に包まれました。そして、「相馬高校吹奏楽部」、「相馬合唱団エスポワール」と今年はじめての参加になる「相馬子どもオーケストラ&コーラス保護者有志コーラス」が加わった総勢200名による、シベリウス作曲の「フィンランディア」。全員は舞台に乗りきらず、客席前方にもコーラス用に雛壇を設えた特別なステージは、指揮も浅岡先生と古橋先生がシンクロする2人体制でした。ときに勇ましく、ときに神々しいほどの荘厳なハーモニーが相馬市民会館全体に響きわたる、圧巻のフィナーレ。聴衆からの万雷の拍手は鳴りやまず、アンコールはヘンデル作曲の「ハレルヤ・コーラス」でした。子どもたちを中心に、同じ舞台に立つコーラスのお母様方、普段から子どもたちと一緒に音楽を模索している先生方やフェロー、地元の先輩合唱団が一緒につくりあげる「ハレルヤ・コーラス」は、客席を含めてそこにいる誰もが音楽のすばらしさを実感し、心が震える時間となりました。
コーラスもオーケストラも、技術的にはまだまだの部分があるのかもしれません。しかし、歌ったり演奏したりしているときの子どもたちの真剣で生き生きとした表情は、彼らが着実に力をつけ、前進していることを感じさせてくれます。『第3回エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』の実行委員長であり、相馬出身のエル・システマジャパン音楽監督(吹奏楽)である岡崎先生は、「この子どもたちは、将来、きっと私たちの相馬の文化を担ってくれるでしょう」と、うれしそうに話しました。
この度の『第3回エル・システマ子ども音楽祭 in 相馬』の開催は、実にたくさんの方々の支援で実現しました。その多くがボランティアで協力してくださいました。エル・システマジャパンのスタッフ一同、心より御礼申しあげます。これからも精力的に活動を続けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。