「僕は日本語を話さない。君は英語を話さない。でも、音楽を通して対話ができるって素晴らしいことだと思わない?」マレックさんがそう語りかけると、「相馬子どもオーケストラ」のチェロ奏者・里紗さん(小5)は、はにかんだような笑顔を見せました。
マレックさんと里紗さんが出会ったのは、ちょうど2年前の2014年11月。ご自身のコンサートの収益金を寄付するなどして、エル・システマジャパンの活動を予てから支援してきたマレックさんは、相馬を初めて訪問しました。「相馬子どもオーケストラ」の音楽指導にあたりましたが、そのときに里紗さんが体に不釣り合いな大きいチェロを弾いていることに気づきました。当時、ハーフサイズのチェロは1挺しかなく、ジャンケンに負けてしまった里紗さんは他の楽器を勧められましたが、どうしてもあきらめきれずに、一生懸命、大きなチェロで練習していたのです。
それを知ったマレックさんは、里紗さんにハーフサイズのチェロを贈ることを約束しました。そして翌年、収益金で購入したチェロを里紗さんにプレゼント。しかし、話はここで終わりません。マレックさんは今回の来日で、さらに4分の3サイズのチェロを里紗さんに贈ったのです。これも里紗さんの成長を配慮したマレックさんの心遣いです。マレックさんは購入時に、いくつものチェロをご自身で弾きくらべ、チェロも弓も納得のいくものを選んでくださいました。そこには、「なるべく長く弾いてもらえるように」との願いが込められています。
「また応援してくれてうれしい」と里紗さん。マレックさんは、2年ぶりに再会して、里紗さんのチェロの上達に目を見張ったと言います。「自分のパートはきちんと暗譜しているし、本当にがんばっているのがよくわかります」相馬子どもオーケストラとの共演中、マレックさんが何度となく後方を向いてアイコンタクトをとり、里紗さんの奏でる音に耳を澄ませていたのが印象的でした。
里紗さんはマレックさんとの面会時には緊張して伝えられなかったのか、面会後に「マレックさんにもらったチェロはいい音がするの」と教えてくれました。そして、「まだまだマレックさんのチェロの音には届かないけれど、マレックさんに会って、もっと練習をがんばろうと思った」と目標を語りました。マレックさんの前では言葉の数は多くない里紗さんですが、まさにマレックさんが「音楽を通して対話ができるって素晴らしいことだと思わない?」と問いかけたように、マレックさんから感じとることはたくさんあったようです。