自分が好きな「音」を見つけよう!
〜『ボンクリ・フェス2017』にて作曲教室を開催〜
作曲した曲はその場で演奏していただきました(FESJ/2017/Chika Ochiai)
【動画】冒頭に藤倉先生作曲の「neo」を演奏してくださる本條先生 (FESJ/2017)
「ボーン・クリエイティブ(Born Creative)」。人間は生まれながらにして、誰もがクリエイティブという意味です。その生まれつきのクリエイティビティを引きだし、新しい音楽を楽しもうと企画された『ボンクリ・フェス2017』が、東京芸術劇場で5月4日に開催されました。
『ボンクリ・フェス2017』のアーティスティック・ディレクターを務めたのは、エル・システマジャパン作曲教室でもおなじみの藤倉大先生。現代音楽作曲家の藤倉先生は、世界で活躍する音楽家とのコラボレーションにより、相馬市の子どもたちが自由に音楽を創作できる場を2013年から提供してきました。『ボンクリ・フェス2017』では、そのエル・システマジャパン作曲教室が相馬市外ではじめて開催され、5歳から17歳までの子どもたち26名が作曲に挑戦しました。
三味線にチャレンジ!
『自分が好きな「音」を見つけよう!』と題された、今回のエル・システマジャパン作曲教室。現代邦楽の第一線で活躍されている三味線奏者の本條秀慈郎先生をゲスト講師に迎え、まず三味線でどんなことができるのか説明していただきました。「三味線には、ド・ファ・ドの音しかないんだよ」、「音域は3オクターブまで」、「これは、すくいバチという弾き方で…」というように、実際に三味線を弾いてお手本を見せてくださいます。ハードロックのギタリストも顔負けするような激しい弾きかたや、「猿の鳴き声」なんていうユニークな音に、子どもたちは目も耳も釘付け。ひと通り説明が終わったところで、「じゃ、曲を作ってみて!」との合図で、子どもたちは一斉に作曲に取りかかりました。
大人の感覚からすると、「えっ、これでいきなり作曲できるの?」と不安になりますが、当の子どもたちは音符や教えてもらったばかりの三味線の記号を五線譜にどんどん書きこんでいきます。なかなか筆が進まない子どもも、ようやく書いた1章節を試しに本條先生に弾いてもらったり、自分で三味線を弾いてみたりすると、急にスイッチが入ったように五線紙に向かいます。教室の後方からふたりの息子さんの後ろ姿を見守っていたあるお父様は、「どうなるかと思いましたが、子どもの手が動いているようでよかったです」と安堵の表情。保護者としては、つい脇から子どもをサポートしたくなりますが、そこは子どもたちが「ボーン・クリエイティブ」であることを信じて、じっと我慢です。
自分が書いた音は、どんな音?
作曲中の子どもたちに話を聞いてみると、「ちーん、ちりん、ちりんという三味線の音がおもしろい(晴日くん・5歳)」、「自由にできるから楽しい(満月くん・10歳)」、「ピアノで作曲したことはあるけれど、三味線は全然違う。昔の音がする(智春さん・10歳)」など、それぞれの視点でアプローチ。1時間弱の作曲の時間が終わると、いよいよ本條先生の生演奏つきの発表会がはじまり、三味線からは多彩な音が飛びだしました。「お調子者モンキー」や「宇宙人みたいな曲」といったオリジナリティあふれる曲名もあり、子どもたちがどんな想いをこめて曲を作ったのか、うかがい知ることができます。
晴日くん(左)と満月くん(右)(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
できあがった作品を見せてくれる晴日くん
(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
作曲中の智春さん
(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
そして、本條先生の演奏がすばらしいのです。子どもたちが書いた曲を初見にもかかわらず、その場で瞬時に解釈し、それぞれの個性が光る演奏をしてくださいます。心地よいメロディ、謎めいた雰囲気、エネルギーの弾けるような響き。子どもたちは既成のルールにとらわれずに自由に作曲するので、なかには演奏が不可能に思われるような曲もありますが、そこはさすが本條先生です。弦を押さえる手をものすごい速さで変えたりしながら、子どもたちが五線譜のうえに創造した世界を音にしていきます。その音に生命が吹きこまれていく様子に目を見張る子もいれば、ちょっと照れたようにしている子もいましたが、最後はみんな誇らしげでした。
本條先生による演奏(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
みんな、“ボーン・クリエイティブ”
今回の作曲教室には相馬からも3名の子どもが参加しました。そのなかの一人、あかりさん(中1)は、「今日はいろんな作品が聴けてよかった。どれも個性豊かで楽しかった。自分の作った曲も実際に弾いてもらうと、こうなるんだとわかった」と、とても満足した様子。前出の満月くんは発表のときには自ら説明しなかったものの、円周率の3.14をド(第3間)ファ(第1間)ミ(第4間)に置きかえたテーマで作曲していたそうです。まさに歴史にその名を残した偉大な作曲家のようなアプローチで、まわりの大人をあっと言わせました。保護者の方たちからは、「大人の目から見ると難しいと思われることを子どもたちは自由に乗り越えていくことに驚きました」、「音楽経験がない子どもでしたが、お絵かきのように楽譜を書き、演奏していただいて、とてもうれしそうでした」といったコメントが寄せられました。
相馬から参加した3人/一番右が、あかりさん
(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
子どもたちとの熱い時間を文字通りパワフルに走りぬけた本條先生は、「子どもの自由闊達な心に、三味線が喜んでいました。子どもの頭のなかにある歌を紡いで、音楽は純粋なものだと改めて感じました」とコメント。藤倉先生は、「こんな大作を短い時間で書けるのはうらやましい。これからもがんばって書いてね」と子どもたちにエールを送りました。
作曲教室を監修してくださっている藤倉先生、ゲスト講師の本條先生、今回の教室をサポートしてくださった作曲家の中川俊郎先生と蒲池愛先生、そして、相馬市での作曲教室の開催を含めて全面的なご支援をいただいているLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンジャパンさまに改めて感謝申しあげます。
(文:仲川美穂子 エル・システマジャパン広報官)
三味線の音色に聴き入る参加者たち(FESJ/2017/Mihoko Nakagawa)
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