カポソカ音楽学院オーケストラ・日本ツアー
相馬子どもオーケストラとの共演
日本アンゴラ外交関係樹立40周年記念事業
FESJ/2016/Chika Ochiai
FESJ/2016/Mihoko Nakagawa
平成28年度文化庁文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業、および日本アンゴラ外交関係樹立40周年記念事業の一環として、5月15日に福島県相馬市の相馬市民会館にて、カポソカ音楽学院・相馬子どもオーケストラ交流コンサートが、5月21日に東京の第一生命ホールにてカポソカ音楽学院オーケストラの東京公演が開催されました。これら2つの公演では、カポソカ音楽学院の代表メンバー34名と相馬子どもオーケストラの子どもたちが共演。リハーサル、本番、演奏後のレセプションなどを通して、カポソカ音楽学院と相馬の子どもたちが国境を越えて交流を深める機会となりました。
音楽は言語や文化を超えて、みんなを一つに
「カポソカの子のアイコンタクトがすごい。常に鋭い目でこちらを見ていて、言ったことに対して、すぐ身体で反応する集中力。野性的、感覚的なところに強く感銘を受けた。素晴らしい時間が共有できて、本当に感謝をしている。相馬の子も何か、普段の自分たちだけでの演奏では感じられない何かを感じてくれたと思う」
(浅岡先生コメント)
相馬公演@相馬市民会館(5月15日)
最初にカポソカ音楽学院オーケストラが、新進気鋭の若手チェリストでもある伊藤悠貴さんの指揮で、チャイコフスキー作曲の「弦楽セレナーデ」を演奏。続いて、カポソカ音楽学院生のコンサイセオン・フェリックス・ダ・コスタさんの指揮で、アンゴラ出身の音楽家のテタ・ランド作曲の「ントヨ」、「イェンベレ・イェンベレ・イェンベレ」、「タタ・ケント」が披露されました。「ントヨ」はポルトガルからの独立戦争の最中に作曲され、危険を察した人間がすばやく逃げるために鳥に生まれ変わり、鳥は危険を訴えるために人間に変身するというメッセージが込められています。カポソカ音楽学院の子どもたちは歯切れのよいリズムに合わせて体を波のように揺らし、祖国の音を全身で表現しました。また、「イェンベレ・イェンベレ・イェンベレ」は独立を果たした喜びや栄光を歌ったもので、いずれもアンゴラの歴史が色濃く反映された内容でした。続いて、相馬子どもオーケストラが音楽監督・浅岡洋平先生の指揮で、バッハ作曲の「ブランデンブルク協奏曲」とモーツァルト作曲の「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を演奏しました。
それからいよいよ、カポソカ音楽学院と相馬子どもオーケストラが、モーツァルト作曲の「ディヴェルティメント」とパッヘルベル作曲の「カノン」を共演。合同練習は前日と当日の午前中のみでしたが、アンゴラと相馬の子どもたちは息のぴったり合った演奏を聞かせてくれました。
豊かな天然資源と美しい自然に恵まれたアフリカのアンゴラ共和国。17世紀以降はポルトガルが奴隷を調達する場所となり、たくさんのアンゴラ人たちがサトウキビ畑の労働力としてブラジルに送られました。ポルトガルの植民地支配からの解放を目指し、1975年に独立を果たしたものの、その後に勃発した内戦に国民の多くが苦しみました。内戦はようやく2002年に終結しましたが、アンゴラ全土に残された数百万発ともいわれる地雷は今も死傷者を出し、貧富の格差が依然として大きな壁として発展の道に立ちはだかっています。
そのような状況を背景に、首都ルアンダ近郊のサンバ行政地区で2008年に誕生したのが、カポソカ音楽学院オーケストラです。同地区の貧困家庭の子どもたちを対象にした青少年支援プロジェクトとしてスタート。エル・システマの理念を取り入れた団体での音楽教育は、困難な状況にある子どもたちを犯罪や非行から守り、成長を導くという成果を上げています。
演奏後の懇親会では、カポソカ音楽学院の子どもたちから相馬の子どもたちへ「今度はアンゴラへ!」と熱いラブコールが送られるほどでした。相馬、東京と2回にわたる共演で、曲を一緒に作り上げることに真剣に向き合ったカポソカ音楽学院と相馬子どもオーケストラの子どもたちは、互いの距離を少しずつ縮めて心を通わせたようです。「幸せ、完璧、皆さんも一緒に手拍子してくれて、最高の気分」、「アンゴラと日本はひとつだと思った」、「世界中のすべての子どもたちに、こういうチャンスがあるべきだ」といった感想が子どもたちから聞かれた今回の演奏会。スマホで一緒に記念撮影をしたり、Tシャツにマジックでメッセージを書き合ったりする姿があちらこちらにありました。最後はカポソカの子どもたちが、「ソーマ、アリガト!」と元気よく歌いながら並んでアーチを作ると、相馬の子どもたちはその下を楽しそうにくぐって、長距離バスでの帰路につきました。
カポソカ音楽学院とは
↑「ソーマ、アリガト!」のコールで送られる子どもたち。
音楽を通じた友情に包まれました(FESJ/2016/Chika Ochiai)
FESJ/2016/Mihoko Nakagawa
FESJ/2016/Chika Ochiai
FESJ/2016/Mihoko Nakagawa
FESJ/2016/Mihoko Nakagawa
↓終演後、楽屋でダンスを踊る子どもたち
↑アンゴラの子どもたちのパイレーツ・オブ・カリビアンに拍手を送る子どもたち
FESJ/2016/Ryosuke Fujii
最後に相馬の子どもたちが、相馬子どもオーケストラのオリジナルTシャツをプレゼントすると、カポソカ音楽学院の子どもたちが「音楽の贈り物」と称して、「パイレーツ・オブ・カリビアン」を相馬の子どもたちのために演奏。指揮者をはじめ、カポソカ音楽学院の子どもたちのパワフルな演奏と弓を海賊の剣に見立てたパフォーマンスに、客席前方に移動した相馬の子どもたちはすっかり釘付けになったようです。小さな子から高校生まで一心にステージを見つめながら、リズムに合わせ夢中になって手拍子を打っていました。終演後は楽屋で即興的にはじまったカポソカ音楽学院の子どもたちの演奏で、アンゴラと相馬の子どもたちが手を取り合ってダンス。音楽を通して規律や自信を身につけ、チームワークを育むカポソカ音楽学院の若き音楽家たちから、相馬の子どもたちが学ぶことはたくさんあったようです。
「アンゴラの子たちは疑問があれば、
すぐに質問して学ぼうとする姿勢がす
ごいと思った。本当に楽しそうに演奏
するので、自分も楽しくなってきた」
(仁奈さんコメント(高1・チェロ))
「戦争や地雷なんかがあるなかで、
音楽ができるのはいいことだと思う」
(花音さん(高2・バイオリン))
「(カポソカ音楽学院の子どもたちは)演奏をする時の体の使い方がいいし、音がきれい。言葉が通じなくても、指差しやジェスチャーで示してくれて親切だった。教えてもらったことを生かしたいです」
(和輝くん(中2・コントラバス))
東京公演@東京 第一生命ホール(5月21日)
「(相馬子どもオーケストラは)本当に小さな子まで演奏していたのが印象的。難しい曲ではないけれど、すごく上手でした」
(ディアンビさん(18歳))
「自分より若い子が演奏しているのが
素晴らしかった。お互いに学びました」
(クリスティアーノくん(17歳))
FESJ/2016/Chika Ochiai(左)
FESJ/2016/Mihoko Nakagawa(中・右)
相馬子どもオーケストラは早朝に相馬を発ち、東京に昼頃到着、第一生命ホールでのリハーサルに臨みました。学校行事などでメンバーは多少入れ替わったものの2度目の共演とあり、リハーサルはスムーズに行われました。カポソカ音楽学院の子どもたちは全員揃って、前週にプレゼントした相馬子どもオーケストラのオリジナルTシャツを着用。カポソカの若者が相馬の最年少のチェリストの女の子の調弦をしてあげたり、楽譜をシェアしている子ども同士が身振り手振りでリズムを確認し合ったりと、本番に向けて両国の子どもたちが互いに積極的にコミュニケーションをとろうとしている様子が、ステージのあちらこちらで見受けられました。
↑おそろいのTシャツを着てリハーサルに臨む子どもたち
↑アンゴラの奏者に調弦をしてもらう里紗ちゃん(小5・チェロ)
↑伊藤さんのチェロ協奏曲に熱心に耳を傾ける相馬の子どもたち(FESJ/2016/Chika Ochiai)
本番では、はじめにカポソカ音楽学院オーケストラが「君が代」とアンゴラ国歌の「Angola Avante」を演奏すると、会場全体が厳かな雰囲気に包まれました。その後、コンサイセオン・フェリックス・ダ・コスタさんの指揮で「ントヨ」、次いで伊藤悠貴さんのチェロとともに、ハイドン作曲の「チェロ協奏曲」、ピアソラ作曲の「オブリビオン」などが演奏されました。相馬子どもオーケストラは、相馬で弦楽器の指導にあたっている須藤亜佐子先生の初指揮で「ブランデンブルク協奏曲」を披露。カポソカ音楽学院と相馬子どもオーケストラの合同演奏曲は相馬公演に引き続き、モーツァルト作曲の「ディヴェルティメント」でした。前回の相馬での公演にも増して息の合った演奏を聴かせてくれ、
演奏が終わるや否や、アンゴラと相馬の子どもたちはステージ上で互いに熱くフレンドリーな握手を求めました。会場は「ブラボー」の大声援と割れんばかりの拍手に包まれ、舞台も客席も含めその空間に存在している人たちが、まさに「ひとつ」になりました。その後、次の演奏準備のために子どもたちが一旦ステージから袖へと引き上げましたが、会場の大絶賛の嵐はおさまらず、まずカポソカ音楽学院の子どもたちがステージへ戻り、さらにカポソカ音楽学院の子どもたちが客席と一体となって、足踏みと声援で相馬の子どもたちを再びステージへ招き入れました。相馬の子どもたちは照れながらも顔をほころばせ、カポソカ音楽院の子どもたちと目で言葉を交わして感動を分かち合っていました。そのステージでの様子を見守る人たち全員が、きっと、とても温かい気持ちになったのではないでしょうか。
カポソカ音楽学院の子どもたちは、その後、相馬公演で演奏された曲のほか、「クルシフィクソ(十字架)」と「アフリカの娘たち」という祖国アンゴラの曲を披露。明るく陽気な曲調ではあるものの、奴隷制度や植民地支配によるアフリカ人の苦難やアフリカの発展における女性の役割を謳ったもので、そこに込められたアンゴラの人たちの想いをカポソカ音楽学院の子どもたちが伸びやかに演奏していたのが印象的でした。そして、アンコールは「パイレーツ・オブ・カリビアン」。全身全霊でチームを率いる指揮者の力強さと迫力満点の演奏に会場は大いに沸き、スタンディングオベーションのなか、東京公演は惜しまれながらも幕を閉じました。
↑客席の一番後ろからアンゴラの子どもたちに歓声を送る相馬の子どもたち(FESJ/2016/Chika Ochiai)
カポソカ音楽学院のカティアさんはまだ興奮冷めやらずといった様子で、
「幸せ、完璧、皆さんも一緒に手拍子してくれて、最高の気分」と目を輝かせました。指揮を担当したフェリックスくんは、「世界中のすべての子どもたちに、こういうチャンスがあるべきだ」と訴えました。
「ディヴェルティメント」の共演後にステージ上でカポソカと相馬の子どもたちが握手をした時の気持ちについて尋ねると、「アンゴラと日本はひとつだと思った」とカティアさん。フェリックスくんは「あまりに素晴らしくて涙が出そうになり、もう勘弁してくれという感じだった」と言い、目の前にいる秋絵さん(高1・バイオリン)と圭吾くん(中2・チェロ)に、「日本は最高。次回はアンゴラの曲をぜひ一緒に演奏しよう」と呼びかけました。
圭吾くんが「今日はとても幸せな日でした。アンゴラのみんなからノリのよさを学びたい」と返すと、フェリックスくんは勢いよく圭吾くんの手を握り、「教えてあげるよ!」と、ひとなつこく笑いました。秋絵さんは「今日の公演は、やりきった感じがする」と充足感をみなぎらせるものの、「アンゴラの人たちがうまかったので、自分もこれくらいになりたい」と新たな目標を見出したようです。
最後にフェリックスくんは、「人生では、やはり悲しい時もある。でも、音楽で心を安らかにすることができます」と秋絵さんと圭吾くんにメッセージ。カティアさんが「今回の公演で得たものは友情。その友情をアンゴラに持ち帰りたい」と言うと、その場にいた全員がきらきらとした笑顔になりました。
~ 演奏会後インタビュー ~
↑左から、圭吾くん、カティアさん、秋絵さん、フェリックスくん(FESJ/2016/Mihoko Nakagawa)
演奏会後の懇親会では、駐日アンゴラ共和国のジョアン・ミゲル・ヴァヘケニ特命全権大使、外務省中東アフリカ局アフリカ部長の丸山則夫大使、エル・システマジャパン代表理事の菊川穰からそれぞれご挨拶があり、カポソカ音楽学院の子どもたちから相馬の子どもたちへ「今度はアンゴラへ!」と熱いラブコールが送られました。相馬、東京と2回にわたり共演し、曲を一緒に作り上げていくことに真剣に向き合ったカポソカ音楽学院と相馬子どもオーケストラの子どもたちは、互いの距離を少しずつ縮めて心を通わせたようです。懇親会の会場では、スマホで一緒に記念撮影をしたり、Tシャツにマジックでメッセージを書き合ったりする姿があちらこちらにありました。最後はカポソカの子どもたちが、「ソーマ、アリガト!」と元気よく歌いながら並んでアーチを作ると、相馬の子どもたちはその下を楽しそうにくぐって、長距離バスでの帰路につきました。
今回の交流コンサートは、カポソカ音楽学院、駐日アンゴラ共和国大使館、在アンゴラ日本大使館、ソナーレ・アートオフィス、そして、相馬市、相馬市教育委員会の皆さまのご支援とご協力、及び文化庁からの助成があって実現しました。なにより、在アンゴラ日本国大使館の伊藤邦明大使の、赴任前から語られていたエル・システマ、そして、音楽を通した交流の可能性への思いが、このような形で実現したことに、とても感動しております。両国の子どもたちのために、このような素晴らしい機会を作ってくださったことに、エル・システマジャパンのスタッフ一同、心より御礼申し上げます。
(文:仲川美穂子)
主催:カポソカ音楽学院、駐日アンゴラ共和国大使館、一般社団法人エル・システマジャパン(15日公演のみ)
共催:相馬市、相馬市教育委員会(15日公演のみ)
企画協力:在アンゴラ日本国大使館
協力:一般社団法人エル・システマジャパン
助成:平成28年度 文化庁 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業
お問い合わせ
・15日相馬公演:一般社団法人エル・システマジャパン
Tel : 03-6280-6624 e-mail : info@elsistemajapan.org
・21日東京公演:ソナーレ・アートオフィス
Tel:03-5754-3102 E-mail:info@sonare-art-office.co.jp