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『大槌子どもオーケストラ ミニコンサート』

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〜ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団のリチャードさんと一緒に〜

写真(1~5枚目:FESJ/2016/Mihoko Nakagawa、6~10枚目:FESJ/2016/Takaaki Dai)

 「大槌子どもオーケストラ」が初主演するミニコンサートが、岩手県大槌町の沢山地区集会所で12月18日に開催されました。エル・システマジャパンの弦楽器教室がスタートしてから2年4ヶ月。バイオリンやチェロをゼロから学んだ子どもたちも腕を上げ、弾ける曲のレパートリーも増えました。この半年ほどは外部のイベントやコンサートで演奏の機会をいただいてきましたが、今回は「大槌子どもオーケストラ」が主役となるはじめてのコンサート。チラシにもプログラムにも「大槌子どもオーケストラ」の名前が大きく踊ります。ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団のリチャードさんと一緒に、子どもたちはこの日を楽しみに迎えました。

弦楽器の風、大槌町へ

 色紙やカラーペンで子どもたちがクリスマスの飾りつけをした会場。いよいよ本番は、今春に大槌に赴任してきた20歳の櫻井先生(弦楽器指導)の初々しい司会ではじまりました。1曲目は、岩手出身の宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」。ゆっくりとしていて、どこかなつかしい弦楽器の音色に耳を澄ませると、夜空に星たちが浮かんでは、すうっと流れていくようでした。そして2曲目は「小さな世界」。折りたたみ椅子を並べた客席には、小さな子どもから年配の方たちまで40人ほどいましたが、みんな陽気な手拍子で「小さな世界」に加わりましました。そのあと、「きよしこの夜」、「ジングルベル」など、クリスマスにちなんだ曲が次々と披露され、最年少の3歳の子たちもタンバリンや鈴を鳴らして大活躍。その一方で、スペシャルゲストのリチャード・エレジーノさんとエル・システマジャパンのフェローたち(弦楽器指導ボランティア)による「ディヴェルティメント ニ短調 K.136」などの本格的な演奏もあり、「大槌子どもオーケストラ ミニコンサート」は第1回目の開催にもかかわらず、とても充実した内容でした。

 終演後にお願いしたアンケートには、「心はずむ演奏ばかりでした(40代・女性)」、「最初の音が出た時の空間の純粋な輝きは、涙が出てしまう程(20代・女性)」、「みんなが初めて楽器を演奏する姿は真剣そのものですてきでした。音楽がみなさんを和ませる力があるなあと感じました(60代以上・男性)」、「8歳の子供を連れてきましたが、同じ位の子供達がバイオリンをひいている姿を見て、刺激を受けた様子だった(40代・男性)」といったコメントが寄せられました。また、「普段、身近で生演奏を聞けない(60代・女性)」、「自分にはない価値観にふれることが出来た(60代以上・男性)」など、今回のコンサートが、ささやかながら新しい風を大槌町に吹きこんだ様子がうかがえました。

大人も一緒に、みんなで作るオーケストラ

「大槌子どもオーケストラ」のメンバーは子どもですが、今回のコンサートでは、弦楽器を学びはじめてからまだ間もない地域の大人も加わり、オーケストラの一員として子どもたちと一緒に演奏を披露しました。なかには親子の参加もありました。大人と子どもが同じ舞台で音楽を作りあげる、オープンで自由なオーケストラ。地元の方たちからは、「参加されているお子さん、お母さん方の将来が楽しみです(50代・女性)」、「頑張る子供達の姿、子供から大人まで一緒に出来る事(がよかった)(40代・男性)」、「私もバイオリンひいてみたいなと思いました(40代・女性)」という前向きなコメントをいただきました。

 東日本大震災で被災してから過疎化がさらに進む大槌町において、子どもたちを中心に家族や地域を盛りあげ、復興への一端を担えることを私たちエル・システマジャパンのスタッフは願っています。大槌町らしい復興の形を、音楽を通して少しずつでも模索していければと考えています。

写真左が大槌担当の櫻井先生(FESJ/2016/Mihoko Nakagawa)

手拍子で盛り上がる会場(FESJ/2016/Mihoko Nakagawa)

大人の方も一緒に参加される様子(FESJ/2016/Takaaki Dai)

リチャードさんからのメッセージ

 毎年、この時期になると大槌町の子どもたちに会いに来る、サンタクロースのようなリチャード・エレジーノさん。リチャードさんはロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団で活躍して今年37年目を迎える、ベテランのビオラ奏者です。軍人だったアメリカ人のお父様と洋裁店を営んでいた日本人のお母様のあいだに東京の蒲田で生まれ、16歳ではじめてアメリカの地を踏みました。61歳のリチャードさんがエル・システマに出会ったのは、5年ほど前にベネズエラを訪れたときのこと。リハーサル室に入った途端、子どもたちが演奏しながら発するエネルギーに涙がこぼれたそうです。貧困という壁が大きく立ちはだかるベネズエラでは、エル・システマの活動に参加する子どもたちの多くにとって、演奏することが未来への希望なのです。その後、リチャードさんはオーケストラのビオラ奏者としての仕事を続けるかたわら、ロサンゼルスで立ちあがったエル・システマ式のユースオーケストラ(YOLA:Youth Orchestra Los Angeles)の指導にたずさわり、そのご縁で大槌町にも足を運んでくださるようになりました。 

「歌うように弾いてごらん。ここを世界中で、一番幸せな楽しい場所にしよう」コンサートを前に緊張した表情でバイオリンやチェロを構える子どもたちに、リチャードさんは呼びかけました。東日本大震災で親族が亡くなったり、仮設住宅での生活が続いていたりと大変な状況にあっても、笑顔でがんばっている子どもたちを見ると応援したくなるそうです。コンサートでは、ビオラ向けに編曲したバッハの「無伴奏チェロ組曲」をソロで聴かせてくださったほか、宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」から「ジングルベル」まで、最初から最後まで子どもたちに寄りそうように一緒に演奏してくださいました。 

「この1年で、みんなとても上手になったね。昨年はひとりひとりの演奏だったけれど、今年はみんなで一緒に演奏できて、すばらしかった。毎日少しずつ努力するんだよ、1日1円ずつ貯金するようにね」そう語りかけるリチャードさんの言葉を、子どもたちは目をぱちくりさせながら聞いていましたが、毎年12月になるとカリフォルニアからやってくる日に焼けたサンタさんのメッセージをふとしたときに思い出すのでしょう。 

(文:仲川美穂子 エル・システマジャパン広報官) 

朗らかに子どもたちに演奏を教えるリチャードさん(FESJ/2016/Mihoko Nakagawa)

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